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東京高等裁判所 平成8年(行コ)37号 判決

神奈川県鎌倉市津一〇四〇番地八〇

控訴人

倉石賛次

同所

控訴人

倉石喜久子

右両名訴訟代理人弁護士

前田幸男

神奈川県平塚市松風町二番三〇号

被控訴人

平塚税務署長 田沼靖朗

神奈川県鎌倉市由比ケ浜四丁目六番四五号

被控訴人

鎌倉税務署長 埋橋修

右両名訴訟代理人弁護士

池田直樹

同指定代理人

伊藤顕

鈴木一博

河村康之

櫻井和彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人平塚税署長が控訴人倉石賛次に対して平成二年三月二七日付けでした同控訴人の昭和六二年分所得税の更正処分のうち、税額八一八万七五〇〇円を超え、かつ納付すべき税額二六三五万五〇〇〇円を超えない部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、過少申告加算税二二一万八五〇〇円を超えない部分をいずれも取り消す。

三  被控訴人鎌倉税務署長が控訴人倉石喜久子に対して平成二年一〇月一八日付けでした同控訴人の昭和六二年分所得税の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいすれも取り消す。

第二事案の概要

事案の概要は、次に付加訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりである。

一  原判決七枚目裏二行目から八行目までを次のとおり改める。

「本件の争点は次の二点である。

1  本件差益が本件土地建物の譲渡によって生じた所得として、措置法三二条一項の分離短期譲渡所得に該当するのか、それとも借家権の譲渡によって生じた所得として、所得税法三三条三項二号の長期譲渡所得(この場合、同法二二条二項二号により、所得の二分の一の額が総合課税の対象となる。)に該当するのか。

2  本件差益が分離短期譲渡所得に該当する場合において、措置法三五条一項の居住用財産の譲渡所得の特別控除の対象となるかどうか。」

二  同一三枚目表一〇行目及び同裏一行目の各「更正処分」の次に「(異議決定による取消後のもの)」をそれぞれ加える。

三  同一三枚目裏五行目及び七行目の各「更正処分」を「再更正処分」にそれぞれ改める。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に付加訂正するほかは、原判決の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりである。

一  同二三枚目表七行目の「いなった」を「いなかった」に、同八行目の「疑念を」から同九行目の「ない」までを「には疑問がある」にそれぞれ改める。

二  同二四枚目表一行目の「認められる」の次に「(甲四一号証、乙二八号証によれば、甲四〇号証の一の記載内容は信用性がなく、むしろ乙二八号証中の清水の陳述書によって事実を認定すべきである。)」を加え、同一〇行目を次のとおり改める。

「なお、本件において控訴人賛次の清水からの取得価格と藤産業への転売価格に差があることは前記のとおりであるが、土地は、他の大量生産の商品とは異なり(このような商品でさえ一物一価は貫徹されていない。)、個性があるものであり、その取引価格は、当事者の力関係、おもわく等によって著しく変動する(そのことの故にいわゆる「土地転がし」の現象が生ずる。)。右程度の価格の差をもって直ちに借家権価格の存在を裏付けるものといえないことは明らかである。

したがって、控訴人らの主張は、まずこの点において理由がない。」

三  同二五枚目表五行目から同裏八行目までを次のとおり改める。

「しかし、借家権(建物賃貸借上の賃借人の権利)が税法上の資産として扱われることがあるにしても、そのことは一般的に承認されているわけではない(たとえば居住用借家権は相続税課税の対象となる財産とされることはない。)。そもそも借家権には借地権のように譲渡についての裁判所の許可手続がなく、当事者間に特約があるような場合を除き法的に譲渡性を欠き、その換価性は認められない(強制執行における責任財産となることもない。)。店舗等の営業用借家の譲渡の実態も、什器備品類やのれんあるいは場所的利益をも考慮して取引が行われているのであって、純粋な借家権そのものが取引の対象になっているものとは認め難い(いわゆる立退料なるものは、家主からの解約申入れにおける正当事由の補完として、借家権の対価として支払われるというよりも、立退・移転によって生ずる借家人の損失の補償の性格が強いと解すべきである。)。したがって、税法上の借家権の資産としての取扱いも、借家権のように一般的な取扱いをするというわけにはいかず、借地人が底地を買いとってその土地を他に売却した場合の所得税基本通達三三-一〇の取扱いを借家についても適用することが相当とはいえない。

よって、控訴人らの右主張は理由がない。」

四  同二七枚目表六行目の「本件土地建物」の次に「について控訴人らがこれを生活の本拠として継続して使用する意思をもたず、一時的な使用をしたに過ぎなかったことは明らかで、そ」を加える。

第四むすび

以上の次第で、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉威雄 裁判官 塩月秀平 裁判官 浅香紀久雄)

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